【臨床で役立つ】トリガーポイントとは?|定義・病態・治療選択の整理
こちらはトリガーポイントの解説記事です。解剖学・臨床的な視点を取り入れつつ、整形外科、リハビリテーション科、理学療法士、看護師、鍼灸師、柔整師向けの内容です。
**トリガーポイント(Myofascial Trigger Point)**は、慢性疼痛の一因として臨床現場で重要な概念です。
筋骨格系の痛みに携わる医療者にとって、診断・治療戦略に組み込むことで、難治性疼痛への介入精度が向上します。
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☑️ 定義と特徴
トリガーポイント(以下、TrP)とは:
骨格筋内に形成される過敏性のある限局性硬結であり、
圧痛とともに**関連痛(Referred pain)**を引き起こす部位。
🔍 主な特徴
• 筋線維の**異常な持続的収縮(サルコメア短縮)**を伴う
• 圧痛点の触診で**放散痛・自律神経症状(発汗、立毛、冷感など)**が生じる
• 関節可動域制限や筋力低下を呈することもある
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☑️ 病態・発生機序
TrPの形成は以下のメカニズムが関与すると考えられています
生理学的背景
• 筋損傷や微細外傷による局所虚血・酸性環境
• 持続的な筋収縮によりCa²⁺が放出され、アクチン・ミオシン結合が解除されない
• **発痛物質(サブスタンスP、ブラジキニン、セロトニンなど)**の局所蓄積
リスク因子:
• 繰り返される過負荷、同一姿勢
• 局所冷却、ストレス、睡眠障害
• 神経障害や中枢性感作との関連も報告あり
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☑️ トリガーポイントと筋肉の関係
TrPは特定の筋(以下参照)に形成されやすく、触診や動作誘発での再現性が診断の鍵です。
筋略語 筋名 好発部位と臨床所見
TRAP 僧帽筋 : 肩こり、後頭部痛、眼精疲労
LEV 肩甲挙筋 : 頸部可動域制限、肩甲部痛
QL 腰方形筋 : 腰痛、側屈制限、側腹部への関連痛
GLUTE 大臀筋 : 坐骨神経痛様症状、歩行障害
HAM ハムストリングス : 坐位困難、骨盤不安定感
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☑️ 治療法の整理:保存的 vs 侵襲的
治療法 概要 特徴
徒手療法(TrP release) 指圧・ストレッチによる直接刺激 繰り返し介入で効果、術者技量依存
ドライニード(DN) 鍼(針)による穿刺、局所反応誘発 鍼灸師・PTによる手技、即効性あり
TrP注射 キシロカイン等の局所麻酔薬を注入 医師が施行、エビデンスも豊富
物理療法 超音波・低周波・温熱など 血流改善を目的に併用されること多い
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☑️ トリガーポイント注射(Trigger Point Injection: TPI)
■ 適応
• 保存療法に抵抗する慢性筋筋膜性疼痛症候群(MPS)
• 関連痛が明確な局所性疼痛
■ 使用薬剤例
• 1%リドカイン(単独または生食との混合)
• 局所麻酔薬+ステロイドは基本的に非推奨(腱・筋損傷の懸念)
■ 注意点
• 感染対策の徹底(無菌操作)
• 神経・血管損傷リスク回避(解剖学的知識必須)
• 筋肉層の深度や体位調整に注意
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☑️ 関連疾患と鑑別診断
疾患名 鑑別ポイント
頸椎症性神経根症 神経支配に一致した放散痛、筋力低下あり
線維筋痛症(FMS) 全身性疼痛、圧痛点分布、睡眠障害など
関節障害(肩関節周囲炎など) ROM制限、関節包への圧痛
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☑️まとめ:臨床での活用ポイント
• TrPは筋性疼痛の原因として非常に一般的
• 理学所見(圧痛、放散痛、筋緊張、可動域制限)と局所治療への反応性が評価の鍵
• TPIやドライニードリングは非侵襲的治療と併用して長期管理へ
📎 参考資料(医療者向け)
• Simons, Travell & Simons: Myofascial Pain and Dysfunction
• Gerwin, Robert D. et al. (1997). Clinical recognition of myofascial trigger points
• 日本整形外科学会誌、理学療法学関連論文