今回は、施術者にとって知っておきたい**「PRT(ポジショナルリリースセラピー)」「カウンターストレイン」「PIR(等尺性収縮後弛緩)」**の違いと臨床での使い分けについてご紹介します。
「筋肉が硬い」「ストレッチしても緩まない」「触れるだけで痛がる」
そんな症状の患者さんに、どの手技を選ぶかで改善効果は大きく変わります。
☑️ 1|カウンターストレインとは?
アメリカのオステオパシー医師であるローレンス・ジョーンズ が開発した痛みの少ない徒手療法です。
■ 基本
- 筋肉や関節にある圧痛点(トリガーポイント)に注目し、そこに関係する筋を最も短縮した楽な位置に保持することで、神経筋反射の過剰反応をリセットする。
- 筋紡錘の興奮を鎮め、筋スパズムや疼痛を解除するアプローチ。
■ 方法
- 圧痛点(トリガーポイント)を探す
→ 筋肉や関節周囲にある、押すと「痛い!」と感じる圧痛点を押す。 - その部位が“最も楽になる姿勢”に誘導
→ 痛みが10 → 3以下くらいになるポジションを探す。 - その姿勢を90秒間保持
→ 筋紡錘が「危険でない」と認識し、反射的緊張がとれる。 - ゆっくりと中間位へ戻す(10秒ほどかけて)
→ 急激な動きは反射の再発を引き起こすことがある。 - 再度圧痛点をチェック
→ 痛みが軽減されていればOK。必要に応じて他の部位へも施術。
■ 特徴
- PRTの前身あるいは同義語とされることもある
- 明確なポイントに基づく施術
- 安全・受動的・痛みのない方法
■ 対象
- ぎっくり腰・寝違えなどの急性疼痛
- 慢性肩こり・腰痛・首の張り
- 筋膜性疼痛症候群(MPS)
- 姿勢不良に伴う筋緊張
- 自律神経の影響が強い筋緊張(過呼吸・不安など)
- 高齢者・小児・妊婦など、強い刺激を避けたいケース
☑️ 2|PRT(ポジショナルリリースセラピー)とは?
PRTは、カウンターストレインの概念を発展させたもので、カウンターストレインと非常に近いが、圧痛点に限らず、筋膜や全体的な緊張にも対応し筋膜・神経系にもアプローチできる柔軟な手技です。
■ 基本
- 筋肉・筋膜・神経の「防御反射」や「過敏状態」を鎮めるため、筋肉を短縮位(楽な姿勢)に保持する。
- 反射的な筋緊張を解除し、痛みと筋スパズムを抑える。
■ 方法
- 過緊張・違和感のある筋を触診・評価
→ 触診、筋走行、筋膜の張り、患者の訴えを元に部位を特定。 - その筋肉が“最もリラックスするポジション”を探す
→ 関節の屈曲・回旋・側屈などを組み合わせて、**痛みや緊張が最も軽減されるポジション(Comfort Position)**を見つける。 - その姿勢を90秒保持(自律神経反応を待つ)
→ 痛み・違和感が消える、筋の緩みを感じる。 - ゆっくりとニュートラルへ戻す(10秒ほどかけて)
→ 急な戻しは反射を再誘発するためNG。 - 再評価
→ 緊張の緩和、動作時の可動性、痛みの変化をチェック。
■ 特徴
- 非侵襲的・非常に穏やか。
- 高齢者や痛みが強い人にも適用しやすい。
- トリガーポイントや筋膜リリースの一種とも関連。
■ 対象
- 慢性痛、筋緊張、トリガーポイント由来の痛みなど。
☑️ 3|PIR(等尺性収縮後弛緩)とは?
PIRは、筋エネルギー法(MET)の一種で、患者自身が軽く筋肉に力を入れることで、筋肉を緩めていくテクニックです。
■ 基本の考え方
- **筋肉を自発的に収縮(等尺性:動かさずに力を入れる)**させた後に、反射的に筋が弛緩する現象を利用。
- 筋紡錘やゴルジ腱器官の反射作用を利用し、柔軟性の改善や可動域の拡大を狙う。
■ 方法
(例:ハムストリングス)
- 筋肉をやや伸ばした位置にセット
→ 軽くストレッチ感がある程度(痛みはNG)。 - 患者に軽く筋収縮を行ってもらう
→ 「膝を曲げる方向に5秒だけ押してください」など、約20%程度の力で5〜10秒。 - 「力を抜いてください」と伝えて脱力させる
- 脱力直後に、筋をやや伸ばす(ストレッチ)
→ 呼吸とともに数秒かけて、無理なく可動域を拡げる。 - これを2〜3セット繰り返す
■ 特徴
- ストレッチと筋力調整を兼ねた能動的療法。
- 患者の参加が必要。
- 関節可動域の改善に有効。
■ 対象
- 筋緊張・短縮、可動域制限、整形外科・スポーツ分野で多用。
☑️ 違いのポイント早見表
比較項目 | カウンターストレイン(Counterstrain) | PRT(ポジショナルリリースセラピー) | PIR(等尺性収縮後弛緩法) |
🔸開発者・由来 | ローレンス・ジョーンズ医師 | カウンターストレインを基盤に発展 | 筋エネルギー法(MET)の一種 |
🔸目的 | 圧痛点の緊張緩和・疼痛軽減 | 筋膜・神経系の過敏反応の緩和 | 可動域の改善・筋短縮の解消 |
🔸施術スタイル | 完全受動的(患者は動かない) | 完全受動的(患者は動かない) | 能動的(患者が力を入れる) |
🔸主な作用 | 神経筋反射のリセット | 筋・筋膜・神経系の調整 | 筋収縮による反射的な弛緩 |
🔸施術方法 | 圧痛点を見つけ、楽な姿勢で90秒保持 | 筋の短縮位を保持して緊張を解放 | 軽い筋収縮 → 弛緩 → ストレッチ |
🔸対象の症状 | トリガーポイント、局所的な筋スパズム | 慢性痛、広範囲の緊張、神経過敏 | 筋短縮、可動域制限、姿勢不良など |
🔸安全性 | 高い(痛みの強い患者にも適応可) | 高い(高齢者や自律神経過敏にも) | 比較的安全(筋力がある人向け) |
🔸臨床での使い分け | 急性痛・過敏反応が強いケースに | 全身的・慢性的な緊張バランスに | リハビリ・ROM拡大・スポーツ障害に |
☑️ 現場での使い分けのコツ
• 痛みが強い・防御反応が出やすい患者には → カウンターストレインやPRTでまず安心させる
• 筋肉の短縮や関節の可動制限が目立つなら → PIRで動かしながら改善を狙う
• 痛みも可動域も両方ある患者には → PRTで緊張を抜いた後にPIRで可動域を広げる
☑️ 最後に
どの手技も「目的」と「患者さんの状態」に合わせて使い分けることが大切です。
大事なのは、「筋肉が硬い」理由が痛み・防御反応なのか、短縮なのかを見極めること。
施術の引き出しを増やして、患者さんの快適な回復をサポートしていきましょう!